田村重信
「代表的日本人・西郷隆盛」
――最後に、西郷さんの人柄を示すエピソードを、内村さんの「代表的日本人」の中から紹介したいと思います。
「西郷の犬は、その生涯の友でありました。西郷は犬を伴って昼も夜も山中で過ごすことが度々ありました。たいへん淋しがりやの西郷は、口の利けない動物たちと淋しさを分かち合っていたのでした。
西郷は口論を嫌ったので、できるだけ、それを避けていました。あるとき宮中の宴会に招かれ、いつもの平服で現れました。
退出しようとしましたが、入り口で脱いだ下駄が見つかりませんでした。
そのことで、だれにも迷惑をかけたくなかったので、はだしのまま、しかも小雨のなかを歩きだしました。
城門にさしかかると、門衛に呼び止められ、身分を尋ねられました。
普段着のまま現れたので怪しい人物とされたのでした。「西郷大将」と答えました。しかし門衛は、その言葉を信用せず門の通過を許しません。
そのため西郷は、雨の中をその場に立ち尽くしたまま、だれか自分のことを門衛に証明してくれる者が出現するのを待っていました。
やがて岩倉大臣をのせた馬車が近づいて来ました。ようやくはだしの男が大将であると判明、その馬車に乗って去ることができました」
「岩倉大臣」とは岩倉具視さんのことです。ちょっと考えられないですよね。普通、西郷さんぐらいの方なら、「オレを誰だと思ってる。通さないと後でどうなるかわからないぞ」と言うんですが、そういうことを西郷さんは言わないんですね。
優しさに溢れた方だったわけです。――
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「代表的日本人・西郷隆盛」(PDF:528KB)